旅行に行くときに飛行機を使う方は多いですよね。
空港での待ち時間や機内で過ごす時、暇じゃありませんか?
そんな時に100倍楽しくなるちょっとマニアックな飛行機の雑学を紹介します。
明日から誰かに話したくなること間違いなしです!!
飛行機の重心位置は大型機でも前後2メートルほどの許容範囲に限られる
飛行機は空を飛ぶという性質上、重心位置がシビアに決められています。
おおよそ翼の付け根当たりに重心位置が来ることが普通ですが、驚くことに大型機のB777ですら前後2メートルくらいしか重心の許容範囲がありません。
重心は旅客数や、搭載する貨物によって毎便変わりますので、都度計算され飛行計画に反映されています。
重心位置が変わるとどうなるのでしょうか。
重心位置が前方過ぎる場合
- 水平定常飛行を維持するために、機首を上げる(尾翼を下げる)必要があり、空気抵抗が増える。必要な巡航速度を得るにはエンジン出力を上げる必要があるので、燃費が悪くなる。
- 離陸時に機首がなかなか上がらないので、離陸滑走距離が長くなる。
- 着陸時に機首を上げにくいので、機体(特に着陸装置や胴体)に大きな荷重がかかる。
重心位置が後方過ぎる場合
- 機首が上がりやすいので失速に入りやすい。
- 前輪に加わる重量が軽くなるので、離陸滑走中に尾翼を地面にこすりやすい。
飛行機と空気密度は深いかかわりがある
飛行機には空気密度(空気の重さ)が大きくかかわっています。
透明な空気にも重さがあり、例えば、海面上の空気の重さは1m3当たり約1.2kgです。
エンジンによって空気を加速して推力を得たり、気流の反力によって揚力を得たりしています。
飛行機が上空高く飛ぶ理由は、空気抵抗が少ないから
飛行機は高度1万メートルを飛んでいます。
上空は空気密度(空気の重さ)が小さいので、機体にかかる抵抗が少ないため効率よく飛行できるからです。
しかし上空に行けば行くほど、空気密度が小さくなりエンジンによる推進力は得づらくなりますので、ちょうどバランスのいいところが高度1万メートルくらい、ということになります。
上空を飛ぶためには2つの空調設備が必要
飛行機が飛ぶ高度1万メートルは酸素が薄く気圧が低いため人間が安全・快適に過ごせるように、清潔な空気を機内に送り換気する《空調設備》と、外気との気圧差で機体が損傷を受けないように機内の圧力を管理する《与圧設備》が必要です。
空調設備の役割
機内に備え付けられた空調装置によって、古い空気と新鮮な空気を入れ替えます。
新鮮な空気がどこから来るのかというと、エンジンから機内に取り入れられています。
エンジンによって取り込まれた空気のほとんどは推力を生むためにエンジン内部で燃やされていますが、一部が客室内に送り込まれています。
バードストライク(鳥がエンジンに吸い込まれること)の時に、焼き鳥の匂いがするというのはエンジン内の空気が客室に送り込まれているからなのです。
また供給される空気の温度・湿度・流速などもコントロールされています。
およそ3分で機内のすべての空気が入れ替わるので、コロナ禍においても機内でクラスターが発生したことはありません。
与圧設備の役割
与圧設備によって、気圧の低い上空でも人間が生きることのできる気圧に調整しています。
気圧が低いと人間は酸素を体内に取り込むことができず、場合によっては数十秒で意識を失い死に至ります。
これを防ぐためには、飛行機が上昇していくにつれて徐々に機内の気圧を上げていき、客室内を与圧すればいいわけです。
通常の運航では、客室内はおよそ8,000フィート(高度2,400m)ほどの気圧に調整されています。
貨物室にはヒーターがある
客席の下には3つの貨物室があります。
- FWD Cargo(前方貨物室)
- AFT Cargo(後方貨物室)
- Bulk Cargo(バラ積み貨物室)
いずれも動物や植物が凍らないように温めるためのヒーターが付いています。
FWD Cargoは凍結しない程度の温度に保たれ、Bulk Cargoは動物が搭載できるように暖かい温度に保たれています。
ペットを連れて旅行に出かける人がいますが、ペットはBulk Cargoに搭載されているのです。
飛行機には機体に溜まった電気を放電する仕組みがある
飛行機は金属でできているため雪や雨、雷雲の近くを飛ぶ際に機体に溜めてしまいます。
機体に溜まった電気は、翼の先端など尖った部分から放電されていきます(コロナ放電といいます)。
飛行機には様々な電子機器が搭載されているので、コロナ放電が電子機器の働きを妨げてしまいます。
パイロットの交信にも影響を与えてしまい、飛行の安全にかかわることもあります。
そこで飛行機の翼には、帯電した電気を徐々に空気中に放電する”Static Discharger”という金属の棒が取り付けられています。
見た目はただの金属の棒ですが、安全な飛行には欠かせません。
両翼や水平尾翼、垂直尾翼に取り付けられているのでよく目を凝らして見つけてみてください。
機内には備え付けの電話がある
飛行機の中ではみなさんの携帯電話は使えませんよね?
でもパイロットが地上と連絡を取るためや、緊急事態に備えて電話が備えられています。
それはSatellite(衛星)を利用した通信システムでSatellite Communication(通称SATCOM)と呼ばれます。
SATCOMは、静止衛星を介して飛行機と地上が通信を行うための装置です。
衛星を利用した通話なので安定した高品質な通信が確保できるとともに、北極・南極地方を除き、ほぼ地球全域がカバーされています。
通常パイロットが使用するHF/VHF通信(電波を利用した通信方法)は、Transmit Switch(送信スイッチ)を押した時だけ送信状態になり、それ以外は受信状態になるPush-To-Talk(PTT)方式を使用しています。
SATCOMの衛星通信はPTT方式は不要で、電話のように話せる(2-Way-Communicationといいます)のが大きな特徴です。
つまるところ、衛星電話です。
操作方法はコックピットでパイロットが”SAT”というボタンを押して電話と同じように電話番号を入力して話をするだけです。
操作を簡略化するためのアドレス帳機能もあります。
また乗客も機内から電話を使用することができます。
ACARSでリアルタイムに地上と情報の送受信をする
運航している飛行機と地上との間で、自動的に情報の送受信をするシステムがあります。
これをACARS(Aircraft Communication Addressing And Reporting System)といいます。
ACARSは、多くの飛行機が飛び交い音声通信が交差する状況でパイロットの負担軽減のために開発された、飛行機と地上間の情報連絡システムです。
ACARSは飛行中に得られた情報をリアルタイムに自動で地上に送信しています。
これにより飛行機が目的地空港に到着する前に、迅速な整備体制・運航体制・旅客ハンドリング体制を確保することができます。
ACARSが運航中に特定の時刻に定期的に送るデータについて、飛行機から地上にデータを送ることを「ダウンリンク」、地上から飛行機にデータを送ることを「アップリンク」といいます。
ダウンリンク(飛行機⇒地上)は
- ランプアウト時間(飛行機が出発スポットを出ていく時間)
- 離陸時間
- 飛行中の位置情報
- 到着予想時刻
- 故障情報
- エンジン情報
- 着陸時間
- ランプイン時間(飛行機が到着スポットに入る時間)
などです。
アップリンク(地上⇒飛行機)は
- 運航情報
- 気象情報
- 空港情報
などです。
ACARSでは、自動的に送られる情報以外にも手動で情報を送ることも可能です。
日本の機上ACARSと地上ACARSの通信は、アビコムジャパン社が担っています。
飛行機のブラックボックスはオレンジ色である
飛行機で万が一重大な事故が発生した場合、乗員乗客が生存する可能性は極めて低いです。
生存者の目撃情報が得られないと事故の状況がわからず原因究明が困難になるので、この問題を解決するために機体に備えられているのがブラックボックスです。
ブラックボックスと呼ばれていますが、捜索しやすいように色はオレンジ色です。
ブラックボックスは
- Cockpit Voice Recorder(CVR:操縦室音声記録装置)
- Flight Data Recorder(FDR:飛行情報記録装置)
という2つの装置で構成されています。
ブラックボックスは飛行機事故があっても回収できるように、耐熱・耐水・耐衝撃構造のカプセルに格納されていて、墜落時の衝撃が最も小さい機体後方に配置されています。
(研究により墜落時の衝撃は機体後方が一番小さいことが明らかになっています。事故が不安な人は後方の座席を予約するといいかもしれません。)
機体に強い衝撃が加わったり、ブラックボックスが水に浸かったりすると電波が発信されるようになっていて、この電波は約30日間ほど発信することができます。
また運航中の飛行機は、常にブラックボックスから発信される特定の電波を受信しながら飛行しています。
Cockpit Voice Recorder(CVR:操縦室音声記録装置)
CVRは古いデータを消しながら最新の120分間を記録し、操縦室内の音声や管制官との無線交信を記録(録音)しています。
Flight Data Recorder(FDR:飛行情報記録装置)
FDRは機体姿勢・速度・高度・操縦翼面の動き・エンジン推力など約60~120種類の飛行情報を記録しています。
パイロットがわざわざスイッチを入れているのではなく、Engineが始動したら自動的に記録が始まるようになっています。
飛行機には救難信号装置が2種類備え付けられている
不慮の事故で墜落または遭難した場合に備え、飛行機にはその位置を知らせるために救難信号を発信する装置が2種類備え付けられています。
この装置を航空機用救命無線機(ELT:Emergency Locator Transmitter)と呼びます。
海上を飛ぶ飛行機は墜落位置を特定することが難しいので、ELTの装着が法律で義務付けられており、ELTは3種類の電波を発信します。
周波数(MHz) | 121.5 | 243 | 406 |
電波形式 | アナログ | アナログ | デジタル |
発信する情報 | 音声、位置情報 | 音声、位置情報 | 機体識別情報、国籍 |
遭難信号を傍受 | 運航する飛行機が傍受 | – | 衛星が傍受 |
運航する飛行機は必ず121.5MHzの電波を傍受しなければならないので、パイロットは常に遭難信号の有無を監視しています。
飛行機に備え付けられているELTは大きな衝撃を受けて自動的に作動する自動型と、手動で作動させる手動型の2種類があります。
Auto Fixed ELT(自動型)
機体に固定されているELTで、一定以上の衝撃が加わると自動的に作動します。
電波を発射するアンテナは機体の上部後方についています。
Portable ELT(手動型)
日本語で”持ち運べる”という意味のELTです。
海水に反応するバッテリーがあるので、Portable ELT単体で作動します。
機内に備え付けられており、墜落時は客室乗務員が海に投げ込み作動させます。
もし地上に不時着した場合は、客室乗務員は備え付けの塩を水で溶かし塩水にしてELTを作動させます。
飛行機には電力を供給するための発電機がたくさん備わっている
飛行機のあらゆる装置は電気によってコントロールされています。
- 客室照明
- 通信機器
- 客室サービス(水やコーヒーの提供、トイレの使用)
- 防雪ヒーター
- 空調
- 操縦舵面の操作
- エンジンの操作
そのため飛行機の電気系統は安全運航に欠かせないものであり、必要な電気は飛行機自身で作られる仕組みになっています。
昔の小型機は大電流を必要としないため自動車と同じように直流電流が主流でしたが、機体が大型になると直流電流では出力が足りなくなり、現在は交流電流が主流です。
ただし直流電流にもメリットがあるので、使用目的に合わせて交流電流と直流電流が使い分けられています。
《交流の利点》
- 小型発電機で出力を大きくできる
- 変圧器により簡単に電圧の上げ下げができる
- 簡単に直流に変換できる
《交流の欠点》
- 制御が複雑になる
- 電気が貯蔵(蓄電)出来ない電圧が安定しない
《直流の利点》
- 電流の制御が簡単
- 電気が貯蔵(蓄電)できる
《直流の欠点》
- 電力が小さい電圧の上げ下げが難しい
- 電流が一定に流れ続けるため高電圧ではアーク(火花)が発生したり、感電の危険がある
飛行機では交流電流と直流電流をそれぞれ以下の装置で発電している。
電流 | 発電装置 | 概要 |
交流 | Engine Generator | Engineの回転で発電し、機体に電力を供給する |
APU Generator | APUの回転で発電する、機体に電力を供給する | |
外部電源 | スポットに駐機しているとき(Engineが停止しているとき)、地上から外部電源を取り出し機体に電力を供給する | |
Static Inverter | 万が一すべての発電機が故障した場合に、バッテリーの直流電流を交流電流に変換する | |
直流 | Main Battery | 非常用電源である(常にFull充電されている) |
APU Battery | APUのスタートやコントロールに使用される(常にFull充電されている) | |
TRU (Transformer Rectifier Unit) | 交流電流を直流電流に変換する | |
RAT(Ram Air Turbine)Generator | 全ての発電機が停止した場合に作動する発電機で、油圧ポンプを動かすことができる。これにより操縦舵面を操作することで、緊急着陸が可能となる。 |
飛行機には消火器がたくさん備え付けられている
飛行機にはたくさんの乗員・乗客が搭乗し、大量の燃料を積んでいます。
もし火災が発生したら大惨事になるので、火災の早期発見と消化装置が必要です。
そこで飛行機には以下の火災・煙探知装置と消化装置が備え付けられています。
- Fire Detection System(火災探知装置)
- Smoke Detection System(煙探知装置)
- Fire Extinguishing System(消火装置)
Fire Detection System(火災探知装置)
エンジン・APU・貨物室・ホイール・ウェル(ランディングギアを格納する部分)での火災や過熱を感知して、その場所をパイロットに知らせます。
熱によって抵抗が変化する電熱線を各場所に配置しておき、抵抗の変化(熱の変化)をセンサーが感じ取ることで検知しています。
Smoke Detection System(煙探知装置)
貨物室とトイレには煙が発生したことを探知する煙探知装置が備え付けられています。
煙探知装置は検知器から光が出ていて、煙で光が遮られると警報装置が作動します。
Fire Extinguishing System(消火装置)
これまでは火災や煙の探知装置をご紹介してきましたが、Fire Extinguishing Systemは実際に消化を行う装置です。
一般な消火剤としては水・炭酸ガス・ハロンガス・粉末消火剤・四塩化炭素・臭化メチル・窒素がありますが、飛行機ではハロンガス消火器と水消火器が使われています。
なお、ホイール・ウェル(ランディングギアを格納する部分)は消火装置が備え付けられていないので、車輪付近で火災が発生した場合は、パイロットはランディングギアを下ろして風圧で消火させます。
ハロンガス消火器
ハロンガス消火器は油脂や電気火災に適しているので、エンジン・APU・貨物室に備え付けられています。
ハロンガスを充満することで火災が発生したエリアを窒息消化させます。
コックピットで消化器作動のハンドルを引くと消火剤が散布される仕組みです。
水消火器
水消火器は一般火災にのみ使用され、油脂と電気火災への使用できません。
携帯用消火器として客室内に備え付けられています。
まとめ
ちょっとマニアックな飛行機の雑学はいかがだったでしょうか。
飛行機には安全な運航を支え、人が快適に過ごすための様々なシステムが備わっています。
雑学を少し知っていれば今までただの移動であった飛行機も楽しい時間に変わるのではないでしょうか。
旅行の隙間時間に読んでいただければ嬉しいです。
以上、<旅行が100倍楽しくなる!ちょっとマニアックな飛行機の雑学!>という話題でした。